金沢城跡、兼六園周辺は城下町金沢の中心として加賀前田家が権勢を誇った時代の風情を今に伝えているが、同時にそこは、近代から現代の金沢を物語るような時代時代の最新建築が見られる地域でもある。金沢という街は金沢城を愛しながらも、常にそれに対して挑戦的な現代の建設をし、城下町の超克を目指してきた。それが金沢の呼吸の仕方なのであろう。新しい建築「金沢21世紀美術館」という名前も、金沢が兼六園の時代で停止してしまうことへの反発が強くにじみ出ていて、非常に金沢らしい。
しかしいくら現代性を意識したといえ、「21世紀」と名付けてしまっては、まるで今がその時点で止まってしまって、既に過去のものになってしまったようで、惜しいことこの上ない。現代性の主張ならば、いっそ「金沢永遠美術館」とでもしてしまうのが、芸術の態度として正しいのでないかと思えてならない。
少なくともそこに展示された作品はいずれも今そこに立ち止まろうとするものではなかった。今踏みしめた左足の地面がもう消滅しかけている危機感に満ち、次の右足の着地点と運動の持続が問題意識にあるだろう。そう、美術館の内部は歩くことが楽しい。円形の建物の内部を歩く場合、地図を見ていても常に東西南北が回転してしまい、混乱する。さらに真っ白の壁と透明のガラスでできているので、自分の位置がわかりにくい。六本木ヒルズでも似たような体験をしたが、歩き迷う、迷い歩く、ということが現代建築らしい。
惜しむらくは廊下の狭さであろうか。平面図を描いてみるとわかるが、円形の壁の内部に方形の部屋をたくさん描くと、隙間の取り方が難しい。隙間が廊下になる。またどうしても壁が多くなる。真っ白の壁に挟まれた狭い廊下は不安になるほどの圧迫感がある。外周を円に設計した時点で広さは出しにくいのかもしれない。個人的にはもっと広がりが欲しいと思っていたものの、思い返してみると、この円と方形の組み合わせで生まれる不均一な隙間こそが、楽しい歩行を生み出していたのかもしれない。「狭いな、ここ」という意識を喚起することが、空間芸術だった……。
私はかつてあんなに子供がたくさんいる美術館に行ったことがない。子供たちが団体で訪れていて、その数は観覧者全体の中で大人よりも多かったのではないだろうか。美術館自体がかなり話題になっているせいもあるだろうが、子供専用の施設が用意されていたり、ホームページに子供向けの説明が詳しく載っていたりして、美術館側が子供に対して積極的にアピールしているのが奏功しているらしい。館内には多くの学芸員の方々がいて、どこの展示室に入ってもそこへ入るなり近づいてきて展示物の説明をしてくれるのだが、子供たちの姿を見てしまうと、全く話を聞く気が起こらない。何を教えてくれようとしていたのかはわからないが、それよりも私も子供たちと同じように、その空間にいるだけで伝わってくる情熱の純粋な体験から感動を得たいと思ったのである。言葉に置き換えて整理してしまうのは後回しにしたい。子供たちが遊べる場所として空間芸術の美術館が成立するとしたら、それだけで21世紀美術館は存在価値を獲得したことになる。子供が楽しいか否か、という観点で展示品を選ぶというのも、空間芸術の選定法として面白いのではないかと思った。
金沢21世紀美術館の今後に期待したい。白い壁、透明のガラス、幾何学的な形、それが21世紀初頭の最新建築としてずっと存在感を放ち続けて欲しい。特に掃除は怠らないで欲しい。時代を経れば、壁はくすみ、朽ちていくだろうが、その姿が金沢城跡や兼六園のように堂々としているように。同じく兼六園周辺で大正時代に作られた旧県庁は近々取り壊されると聞いた。金沢城跡と21世紀美術館、様式から抽象への狭間にある旧県庁は残すべき金沢らしさであると思うのだが、残念なことである。21世紀美術館は、結局何を建てても金沢城しか残せない金沢という街を変える存在にならなければならない。(※旧県庁については情報があやふやなので、削除しました。)
余談であるが、美術館内のレストランのケーキは絶品である。聞く所によるとメープルハウスという評判のケーキ屋が運営しているとのことで、合点のいくおいしさ。もし金沢に行くことがあれば、これを食べ逃してはならない。
金沢21世紀美術館 ホームページ
メープルハウス ホームページ
※fusion21 というのが美術館内のレストランです。

ほんとに子供が多いですよね。なんとも優しい美術館です。
近くにある旧県庁もアールデコでよいと思いました。もし壊すという話がほんとなら再考してほしい・・・