映画に酔わされるという体験を私にさせてくれるのは、いつもベルトルッチ先生です。水の中を泳ぐようなカメラワーク、一点の隙もないカット割り、人間離れした美しすぎる裸体、どれをとっても完璧なのに加え、追い打ちをかけるように鑑賞後必ず与えられる喪失感によって、私の脳内はぐにゃぐにゃになります。
若干22歳で撮った『革命前夜』の情熱的官能美、『1900』の遣りきれない虚無感、『シェルタリングスカイ』の人間哲学、私にとってはすべてがマスターピースであり続けます。最近でいえば賛否両論だった『シャンドライの恋』でも惜しみなくその完全美を見せつけられ、短編『10ミニッツオールダー イデアの森』でさえも「ああこれが先生だ」と思わせるのだから完敗です。と泥酔しすぎてあんまりなので本作について…。
映画オタクたちは、または映画に限らず文化人はみなそうですが、早死にしたがる傾向があります。『ドリーマーズ』の若者たちは映画オタクであり、革命家でもあり、グータラで欲情のままに生きるのとは裏腹に死への美学がありました。親に見られた不貞を懺悔することと、ファシズム体制の警察に抵抗すること、そのどちらもが映画を愛するあまり望む映画的な美しい死の口実となるのです。
ところが先生はどうでしょう。その美学を貫き美しい死を遂げた友人を横目に、残された主人公は孤独を背負いながらも一人の映画オタクとして口うるさく蘊蓄を語り続けていくのでしょうが、それがまさに先生であることは間違いありません。
オマージュ作品と聞くと少しテンションが下がりますが、これは素直に先生が我々若者たちに仕立ての良い教科書を与えてくれたようなものです。数々の古き良き映画の引用を多用して、ときに我々に「やべーこの映画知らない」という焦燥感を与えます。いまなぜ先生は、これをまるで遺言のように「若者よ映画を観なさい」と見せつけるのか、その真意はわかりませんが、長生きしてしまった爺さんにはそういう使命があるようです。死に急ぐくらいなら映画でも観てろ、または、こんな映画を観るくらいならもっと観るべきものがいっぱいあるだろう、という説教でも聞いたような気分です。
いちベルトルッチ好きの私としては、先生こそ、この手の映画は死ぬ間際に未完で遺すくらいが丁度良いので、そんな暇があるならもっとたくさん私を酔わせてください、と懇願するばかりです。
[2003英=仏=伊/ヘラルド][監督]ベルナルド・ベルトルッチ[製作]ジェレミー・トーマス[原作][脚本]ギルバート・アデア[撮影]ファビオ・チャンチェッティ[出演]マイケル・ピット/エヴァ・グリーン/ルイ・ガレル/ロバン・レヌーチ/アンナ・チャンセラー/ジャン=ピエール・レオー


