少し古いのですが、カレル・ゼマンの一連の作品がDVD化されています。この「彗星に乗って」は1970年制作で、舞台背景はもっとずっと昔々……。フランスの軍隊がアフリカの砦でアラブ人と戦争しているところへ、巨大な彗星が近づいていて不穏な気配です。そこへ持ってきた敵のろうそく式時限爆弾が爆発します。それに加えて地震やら稲妻やらが合わさったドタバタの拍子に、街も砦も船もフランス人もアラブ人もスペイン人もみんな丸ごと彗星に引き寄せられてしまいます。気がついたらそこは彗星です。砦の屋根が少し壊れてはいるものの、まあ無事です。ああ、空に浮かんで遠ざかっていくアレが私たちの地球らしいわ。とずいぶん荒唐無稽です。
というわけで、そっくり移動して、彗星の上にほぼ地球にあったのと同じように街が再現されました。主人公の中尉は植民地の国境線を測量する仕事をしていました。彗星に移動したことで国境線などというものははなくなったわけですから、彼(とヒロインの彼女)の縛りは解かれ、理想郷での生活に期待します。しかし彗星とはいえ、太陽の周りを回っていることに変わりはなく、砦も武器も残っているのですから、相変わらず軍隊は戦争を続けるのでした。
そういえば今年のGWには二つの彗星(リニア彗星とニート彗星)がやってきて、少し話題になりました。地球から眺める分には夢いっぱいの彗星なのですが、そこへ降り立ってみれば、あれがこれと入れ替わっただけのことで、浮かれるようなことではないのでしょうか。どこへ行こうが国境がなくなろうが、戦いを止めないというのは風刺にしては安いんじゃないかとも思いますが、戦争を知らない私には判断しづらいところです。北朝鮮に拉致され、ようやく帰国を果たした日本人の蘇我ひとみさんとその夫でアメリカ人脱走兵のジェンキンスさんは中国ではなくインドネシアで再会するらしいですね。5つも国の名前が出てきました。身よりのないタイ人の少女が祖母を頼って日本にいたのをビザ切れで退去させるか、なんてニュースもありました。こう見てみると、国が分かれているのは誰の得になるんだ、と私などは単純に思ってしまいます。ニュースに国の名前がたくさん出れば出るほど、これが戦争の足音ってやつか!とビクビクしてしまうのです。参院選も近いことですし、投票に行けばいいことあるかしら。
ささ、映画の話に戻りましょう。内容はカンタンな割に、構成がマズイのか、少しわかりづらいところがあったように思います。とはいえアニメと実写が混ざった独特の映像は、冒険小説の挿し絵の版画のようなタッチがふしぎで、また美しく、メリエス以来のびっくり映画路線が楽しいことこの上ありません。キューティーハニーが未見なので、この際比べて見に行っても面白いかもしれないと思いました。特に気になったのはアンジェリカ役のマグダ・ヴァシャリヨヴァ(読めない…)の美しさ。中尉殿と同様に私もまた絵はがきの中の少女に一瞬にして恋に落ち、85分彼女ばかりをみつめて夢見心地なのでした。
[1970年/チェコスロヴァキア][原題:ON THE COMET/別題:NA KOMETE][監督]カレル・ゼマン[原作]ジュール・ヴェルヌ[脚本]ヤン・プロチャツカ、カレル・ゼマン[撮影]ルドルフ・スタール[編集]ヨセフ・バルジャク[音楽]ルボス・ファイザー[美術]カレル・ゼマン[衣装デザイン]ヤン・クロパセク[音響]フランティセク・ストレンジミュラー[キャスト]エミル・ホーヴァス/マグダ・ヴァシャリヨヴァ
[amazon][DVD] 幻想の魔術師カレル・ゼマン 彗星に乗って


