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2004年04月18日

ドッグヴィル

ドッグヴィル プレミアム・エディションこの映画に登場人物を隠す壁はありません。役者はそこにないドアの前でドアを開け閉めをしています。観客はそれを了解した上で鑑賞します。




人間には「見たいが見られたくない」性質があるようです。神様は見てるけれども私たちには見えない、その特権にあこがれるのでしょうか。村人たちが醜い獣性を露わにするのは、自分を隠蔽してくれる壁という、「見られていないという設定」があるからです。そして立場の弱いキッドマンを観察します。さらに私たち観客は神様の立場で一方的にその様を眺めることができます。




ところがこの状況はだんだん変化します。

物語の終盤に、とうとうキッドマンのセリフによってドッグ・ヴィル(壁)などないことが明かされます。しかしそれを待つまでもなく、村人は徐々に気がついていくように見えます。自らが見られていないというのは「設定」にすぎないことに。そして我々観客がそうするのと同じように壁を「仮想」しながら、キッドマンの体を弄び続けます。実際は自分の中の弱くて醜い部分が丸見えであるにもかかわらず、お互い見られていないという「設定」を村人が共有しながら、そっくり全部さらけ出し続けてしまっています。




ここでいう変化とは「見られていない」が「見ていない」に変わっていくことです。神様が「見えない」のとは全く違います。ドッグ・ヴィルは「自分の欲望に盲目になるな、それを隠蔽するな」という強いメッセージを観客に投げかけています。壁を越えて全てを見通す神様の特権を観客に提供することによってです。




映画館を出る観客は一様に具合の悪そうな顔をしていました。ドッグ・ヴィルは人間を獣か悪魔かというように描いています。私もこんな意地悪な映画はキライです。人間の欲望とは良いふうにも悪いふうにも描けるのです(盲目のじいさんがキッドマンに欲情して何が悪い!)。人をいじめ抜く映画など、悪趣味の極みです。ただそういう風にだけこの映画を鑑賞するのはまずい。大事なことは、欲望を”隠蔽しながら”欲望を満たす態度がかくも醜いということです。やってないフリをしてやっている。そういえばテストでいい点を取るヤツらは勉強していないフリをしますよね。




・余白について
加えて、こんな風にも思います。こんなに余白のない映画はこれまでにあったでしょうか。




ドッグ・ヴィルはロッキー山脈の麓にあるという設定になっています。ではどこかのそれらしき村で撮影すれば、それらしい山の風景が豊かな余白を提供してくれるはずです。しかし、それは余分だ、と監督が言ったかどうかは知りませんが、ドッグ・ヴィルは真っ白の(または真っ黒の)壁に覆われたセットの中、床に引かれた白いライン(犬を含む)と、必要最小限の大道具小道具と、住民たる役者だけで表されます。




そしてその役者といえば、ニコール・キッドマンがすごい。役者の力のみで表現しなければならない状況の中で、映画のなにもかもを説明しうる迫力があります。凡庸な役者にはまずできないことです。




章立てになった映画の構成が、はじめに字幕として提示され、学術論文でも読ませるかの様相。さらに逐一ナレーションの声が入り、こと細かい説明をしてくれます。人物の内面的な内容にまで至り、あやふやになりそうなところをキッチリと説明しています。逸れた解釈を許してくれません。




こうしてドッグ・ヴィルは観客を釘付けにしてしまいます。観客から自由に見る権利を剥奪し、的確に映画のメッセージを伝える、言ってみればとても窮屈な演出手法です。ラース・フォン・トリアーはキッドマンばかりか、観客をも隷属させたいのでしょうか。しかし、こんな徹底した演出を実行できる監督は他にはいません。余白にびっしりと書き込まれた便所の落書きのように、ラース・フォン・トリアーの才能はとても異様です。





ドッグヴィル ホームページ
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[2003デンマーク/ギャガ・コミュニケーションズ][原題]DOGVILLE
[監督][脚本]ラース・フォン・トリアー[製作]ペーター・オールベック・イェンセン[製作]ヴィベケ・ウィンデロフ[撮影]アンソニー・ドッド・マントル[音楽]ペール・ストライト[出演]ニコール・キッドマン/ローレン・バコール/ジェームズ・カーン

posted by KINEMAtograph Writers at 14:35| Comment(0) | TrackBack(0) | Kinema | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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